たった一人で劇場用アニメは制作できるのか?

2018年8月よりシネ・リーブル池袋他で公開されるアニメ映画『アラーニェの虫籠』(主演CV:花澤香菜)の制作日誌。『イノセンス』のデジタル・エフェクトや、ドラマ「MOZU」のイラスト&アニメ、NHK『みんなのうた』の監督など、多方面に活躍する新進アニメーション作家、坂本サクの長編デビュー作。 “超絶絵師”とも呼ばれる彼が監督、原作、脚本、アニメーション、音楽の一人五役に挑戦。 “たった一人で制作する劇場用アニメ”の舞台裏を公開します! 公式サイト https://www.ara-mushi.com/

制作日誌・第二話「企画が立ち上がる①」

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こんばんは。「アラーニェの虫籠」のプロデューサー、福谷です。

もっと早く更新するはずが、ずるずる遅れています。もう少しペースを上げられればと思います。

 

 さて今回より、製作中の「アラーニェの虫籠」がいかに作られていったかを具体的に振り返ります。

 

 企画の立ち上げは二人

 

 この作品の制作が本格的にスタートしたのは、2016年の10月頃です。

 およそ一年半前です。ただ、この時はまだ企画がまとまった段階。脚本もできていないので、本格的なアニメーション制作はさらにその後になります(そう考えれば、この作品がいかにタイトなスケジュールで作られているかわかります)。

 

 この段階でこの企画に携わっているのは、私と監督のみ。他に知っているのは双方の家族ぐらいです(でも、身内にすら「何をやっているのかよくわからない、怪しい仕事」と思われていたようです)。

 

 監督は(この業界では珍しく?)締め切りを守るタイプなので、私も監督から聞いていただいたいのスケジュールを元に、予算組みやキャスト、劇場公開などをシミュレーションしていきます。

 

 もちろん坂本監督が「締め切りを守る」のは、プロになってからの雇われ仕事や下請け仕事の話です。

 自身の長編監督デビュー作、しかも(一人五役の)完全オリジナル作品だけに、これまでになく気持ちが入れば、当然スケジュールは押します。作り手がこだわり続ければ、一年二年はあっという間に過ぎていきます。

 

 製作委員会ではない方式

 

 この段階で、公開日程や劇場、配給はまだ何も決まっていませんから、逆にスケジュールの縛りはありません。製作委員会形式でもなければ、スポンサーもいない完全自主製作映画です。私と監督が決めたその日が納品日です。納得いかなければ、いつまでも完成しないかも知れません。理論上は永久に作り続けることは可能です。

 でも、お金(製作費)には限りがあります。スケジュールが遅れ続ければ、資金は早々に底をついて、企画は破綻します。私はお金持ちでも何でも無いので、そうなれば私も破産します。

 

 まして、この作品は低予算です。一分たりとも無駄にする余裕はありません。

 それは監督もわかっているので、どこまでこだわるか、スケジュールや予算と照らして、私は常に監督と話し合いました。

 

 作家主導のパーソナルな制作環境

 

 結果として、当初の予定よりも数ヶ月遅れて完成の目処が立ちましたが、なんとかギリギリ想定の範囲内でした(予算はかなりやりくりしましたが)。

 むしろ監督は細部までこだわってくれたので、この数ヶ月のスケジュール押しは、作品のクオリティを上げてくれたという意味で感謝しています。

 

 何がなんでもスケジュールをきっちり守ることも大事ですが、それで妥協しまくってクオリティが落ちたら本末転倒です。

 せっかく「アニメは大人数で作るもの」という前提とは別の、作家主導の極めてパーソナルな環境で作っているのに、できあがった作品が「どっかで見たアニメの劣化版」では意味がありません(もちろん「大人数のスタッフで作るアニメ」を否定するつもりはありませんし、むしろ本来はそうあるべきと思います。ただ、「アラーニェの虫籠」はそれとは別の可能性を探りたかったのです)。

 

 やるからには監督(坂本サク)にしか生み出せない作品にしないと駄目です。

 予算とスケジュールとこだわりのバランスは、アニメに限らず、クリエイティブな作業における永遠の課題です。自分も監督をしているとき以上に、その三者の見極めこそがプロデューサーの一番の仕事かと改めて実感しています。

 

 商業映画の自主製作とは?

 

 ちなみに自主製作映画と書きましたが、あくまでプロによる商業作品としての自主映画です。誤解されやすいですが、なんでも好き勝手に作っているわけではありません。

 たとえば、(規模が違いすぎて比較になりませんが)「帝国の逆襲」から「シスの復讐」までの「スター・ウォーズ」シリーズなんかは、ルーカス(・フィルム)の自主製作映画なんです。

 あとはアニメなら、(ちょっと古いですが)高畑勲監督の映画「セロ弾きのゴーシュ」なんかはそうですね(ちなみに同じ高畑監督のドキュメンタリー映画「柳川掘割物語」は、宮崎駿監督が「風の谷のナウシカ」のヒットで得たお金から自腹で出資した自主製作作品だったのですが、撮影がどんどん延びて、あっという間に資金が底をついて、抵当に入れた自宅も奪われそうになったので、宮崎さんが鈴木敏夫さんに相談して、その補填資金捻出のために「天空の城ラピュタ」が作られてジブリ創設につながったといわれます)。

 もちろん最初はアマチュア作品として製作され、評価されて、商業作品となったケースはアニメでも実写でもたくさんあります。

 「アラーニェ」は最初から商業作品として自主製作された作品のカテゴリーに入ります(ややこしくてすみません)。キャストやスタッフがちゃんとして配給・公開の道筋が取れるのなら、一般的な劇場用映画と何も変わらないと思います。

 

 一年半前の段階でゼリコ・フィルムはまだ法人化されていないので、「アラーニェの虫籠」は当時、個人事業者(私)が出資・製作した自主映画となります(その後クラウドファンディングを行い、予算の補填につながりました)。

 特に企業から出資を断られたわけでもありません。とにかく監督(坂本サク)が今回の作品で、ベストな形で才能を発揮するには、複数より、単独の出資の方が良いと判断したためです(製作委員会形式にこだわらなかったのも、そのためです)。

 

 では、なぜ、私がここまで監督(坂本サク)と「アラーニェの虫籠」にこだわるのか、次回はその背景を書きたいと思います。

 

<「アラーニェの虫籠」30秒予告編 2017.3.24.版>

www.youtube.com